映画「日の名残り」ノーベル文学賞受賞カズオ・イシグロの小説が原作。その重厚な作品の魅力を解説!

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こんにちは。

エンタメブリッジ ・ライターのハイリです。

今回は、2017年にノーベル文学賞を受賞したカズオ・イシグロさんの小説を原作とした、同名の映画をご紹介します。

カズオ・イシグロさんは、長崎県出身の日系イギリス人小説家で、この「日の名残り」という長編小説でイギリス最高の文学賞であるブッカー賞を受賞しています。

私は、全国の映画館で開催されている「午前十時の映画祭」のラインナップに上がっていて初めて、この映画を知りました。

とあるイギリスの侯爵の屋敷で、執事として勤める主人公のストイックさ、そして世界を揺るがす大きな出来事に知らないうちに飲み込まれていく様が、繊細に描かれていて、大変見ごたえがあります。

原作と映画では、あらすじや描き方に一部違いがあるものの、ノーベル文学賞という最高レベルの書き手によるストーリーはこんなにも繊細で、気品に満ちているのか!と舌を巻きました。

では、早速ご紹介していきます。

1.「日の名残り」作品紹介

公開日: 1994年3月19日(日本)
監督: ジェームズ・アイヴォリー
原作者: カズオ・イシグロ
原作: 日の名残り
脚本: ルース・プラワー・ジャブバーラ、ハロルド・ピンター(クレジット無し)
出演者: アンソニー・ホプキンス(ジェームズ・スティーヴンス)、エマ・トンプソン(ミス・ケントン)、ジェームズ・フォックス(ダーリントン卿)、他。
受賞歴:アカデミー賞で、主演男優賞、主演女優賞、美術賞、衣装デザイン賞、監督賞、作曲賞、作品賞、脚本賞の8部門にノミネート。

2.「日の名残り」のあらすじ

日の名残りあらすじ画像出典:https://blogfactory.co.uk/

続いては、「日の名残り」のあらすじをご紹介します。

「日の名残り」のあらすじ(ネタバレなし)

1958年。イギリス、オックスフォードにある貴族の屋敷「ダーリントン・ホール」は、主人が死去した為、売りに出されています。

この物語の主人公であるジェームズ・スティーヴンス(アンソニー・ホプキンス)が、執事としてその生涯を捧げてきた屋敷です。

かつては、世界中から有力な政治家が集まり、重要な会合を開いた屋敷でした。

売りに出された屋敷は、アメリカ人の富豪が、居残った召使いたちも含めて買い取ることになりました。

ですが、大半の召使いたちは既に家を出ており、スティーヴンスは人手不足に悩んでいました。

ちょうどその頃、スティーヴンスは、昔、一緒に働いていたミス・ケントン(エマ・トンプソン)から手紙をもらいました。

手紙の中で、ミス・ケントン(現在は結婚してベン夫人)は、自分の離婚への意志をほのめかしています。

スティーヴンスは、ミス・ケントンが有能だったこともあり、そして個人的な感情もあって、彼女にまた一緒に働いてもらえないかどうか確かめるべく、会いに行こうとします。

そして、ここからスティーヴンスが過去を回想する物語が始まります。

「日の名残り」のあらすじ(ネタバレあり)

日の名残りネタバレあり
画像出典:https://blogfactory.co.uk/

1920年代、スティーヴンスは、駆け落ちした女中の穴を埋めるために、ミス・ケントンと、自分の父親でベテラン執事のウィリアムを雇い入れます。

ミス・ケントンは人当たりも良く、女中頭として働き始めます。

ウィリアムは、ベテランではありながらも、昔のようには体が動かず、仕事中に様々な粗相をしてしまいます。

ミス・ケントンは、そのことにいち早く気がつき、息子であるスティーヴンスに報告します。

ですが彼は、

父には学ぶべき点も多い

と言い、取り合いません。

そんな中、屋敷の主人であるダーリントン卿は、第一次世界大戦後のドイツの復興に手を貸す為、屋敷に各国の要人を招いて国際会議を行います。

ダーリントン卿は、かつてドイツ人の友人がいましたが、戦後の経済難によってその友人が自殺してしまったことを悔いていました。

そう言った経緯もあり、個人的な心象としてもドイツの復興に手を貸したいと考えていたのです。

会議の中で、ドイツの要人がドイツの復興支援に手を貸すよう呼びかける中、アメリカ人の青年だけは、アマチュアな判断をしないよう、つまりドイツに手を貸さないよう呼びかけます。

(ちなみにこのアメリカ人青年が、映画の冒頭で、のちにこの屋敷を買い取った大富豪です)

そんな重要な国際会議の最中、ウィリアムは、倒れてしまい、そのまま病床で亡くなります。

スティーヴンスは、執事としての仕事を全うするために、亡くなった父に構うことよりも、主人に仕え、会議での給仕に徹します。

自分と同じく執事であった父も、仕事を優先することを望むだろうと思ったのです。

そして、1936年。

ダーリントン卿は、ナチス・ドイツの方針に従って、ユダヤ人の女中を解雇するように、スティーヴンス達に迫ります。

スティーヴンスは、主人の言う通り、彼女達を解雇するようにミス・ケントンに指示します。

ですが、ミス・ケントンは、

彼女達を解雇するなら、私も辞める

と言って、拒否します。

そうこうしているうちに結局、ユダヤ人の女中達は、屋敷を出て行かざるを得なくなってしまいます。

ミス・ケントンは、勢いで辞めると言ったものの行く先もなく、屋敷に残ります。

2年後に、ダーリントン卿は、その誤りに気がついて、辞めさせた女中達を探すようにスティーヴンスに言います。

そのことでミス・ケントンは、実はスティーヴンスも心を痛めていたことを知ります。

徐々に、ミス・ケントンはスティーヴンスに心惹かれていきます。

ですが、スティーヴンスは、彼女の好意に全く気づいていないような素振りです。

日の名残りあらすじネタバレあり
画像出典:https://philosophyforchange.wordpress.com/

そんな中、ミス・ケントンは以前の同僚である男性にプロポースされます。

そのことを最後の賭けとして、スティーヴンスに伝えますが、祝いの言葉を述べられただけで、何の手応えもありませんでした。

ミス・ケントンは失望して、そのままその男性と結婚して、仕事を辞めてしまいます。

それから20年後……。

ミス・ケントンとスティーヴンスは再会を果たします。

ですが、ミス・ケントンは孫が生まれるので、女中の仕事をしに屋敷に戻るのは無理であることをスティーヴンスに伝えます。

2人は互いの気持ちを見せることのないまま、再び、別れます。

スティーヴンスは、また再び執事として屋敷に帰ります。

旅の帰り道、スティーヴンスは市井の人々と触れ合い、戦争で息子を亡くした人や、自分の仕えていたダーリントン卿を親ナチスとして非難する人びとに出会います。

ダーリントン卿は、戦争終結後に戦犯のように世間から批判され、そのまま亡くなっていました。

スティーヴンスは、市井の人々から遠回しに嫌味とも思われるようなことを言われます。

スティーヴンスは、屋敷での会議など、客の会話は仕事の妨げになるので、耳にしないようにしていたし、自分はただ主人に仕えただけだ、と人びとに話します。

そしてまたスティーヴンスは、アメリカ人の富豪が新しく主人になった屋敷に戻り、執事としての人生を全うしようとします。

3.「日の名残り」の見どころ

日の名残り見所
画像出典:https://movies.yahoo.co.jp/movie/

続いては、「日の名残り」の見どころを解説していきます。

豪華で重厚な、英国貴族の邸宅!

ズバリ、全編に渡って映るイギリス貴族の邸宅の豪華さには目を見張るものがあります。

調度品から、登場人物達の衣装に至るまで、神は細部に宿る!とでも言わんばかりの美しさです。

そして、邸宅のお庭も綺麗に手入れされていて素晴らしいです。

そして会話の所々に挟み込まれる、イギリスの天気に関する話!

余談ですが、イギリスは霧が多く、天気がいい日が多いとは決して言えないので、そのことを自虐する方も多くいますね。

元々の原作の方は、ブラックジョークに満ちていて、かなり笑えるそうですが、映画の方でも所々でその片鱗がのぞけます。(基本的には、映画はシリアスなトーンではありますが…)

とにかく、イギリス貴族の優雅な暮らしぶりが伺えます。

一体、召使いが何人いるのでしょうか?私は数えられませんでした。

召使い一人一人にも個室があるようですし、かなり裕福な貴族だったのでしょう。

世界史を揺るがすような、スリリングな会合

この映画で重要な役割を果たすダーリントン卿は、実在の人物がモデルだと言われています。

その人物とは、イギリスの第60代首相を務めたネヴィル・チェンバレン氏です。

チェンバレンが当時、ナチス・ドイツに対して宥和政策を行なっていたのも事実ですし、それが元で「弱腰」などと批判されていたようです。

あくまで原作の小説はフィクションですので、史実そのものを描いたわけではありませんが、かなり似ています。

チェンバレンが首相を退いた後に首相の座に就いたのが、あの有名なチャーチルですが、どちらかと言うと、チャーチルの方がナチスドイツに対して強硬姿勢を取ったという点で名声を得ているように思います。

チェンバレンの対ドイツ宥和政策について思いを巡らせながら、映画を見ると、世界史の重大な局面に至る会合を覗き見ているような緊迫感があります。

その世界的に重要な会議を裏で取り仕切るのが、主人公のスティーヴンス執事なのです。

この会合がうまくいくよう神経を注ぐプロ意識が見事です。

見方を変えると、スティーヴンスも、会合をうまく回す執事の役目を果たしながら、世界史を裏で動かしていたとも言えるでしょう。

とにかく、1人の執事の話というだけでなく、全世界を翻弄しかねない超重要な会合の場面が見どころです。

「執事の目を通した、世界を揺るがす出来事へのアクセス」というスケールの大きさが、この映画の見所とも言えるでしょう。

ラブ・ロマンスとしても楽しめる

スティーヴンスとミス・ケントンは、最終的に結ばれることはありませんでしたが、互いに好意を抱きながらも、歯車が噛み合わないということはあるだろうなと思わされます。

映画の中で、ミス・ケントンがスティーヴンスに対して、あなたは仕事の気が散らないよう、なるべく美しい女中は雇わないようにしているのではないか、と言う場面があります。

そうなんです。

スティーヴンスは、それくらいストイックに執事という仕事にその生涯を捧げています。

誰とも結婚せず、誰も愛さずに、ただ、執事として主人に使える人生です。

ザ・プロフッェショナルです!

これは、私の推測ですが、スティーヴンスは、本当は男性が好きだったのかもしれませんし、ただ単に女性に対する勇気がないまま歳を取ってしまったのかもしれません。

そんなスティーヴンスという男性に惹かれてしまったミス・ケントンも哀しかったことでしょう。

こういう自分の気持ちを見せないまま不発に終わる関係性、すごくイギリスっぽいなと個人的には思いました。

そんな「日の名残り」をオススメするのは次のような人です。

4.「日の名残り」をオススメしたい人

日の名残りおすすめ
画像出典:https://blogfactory.co.uk/

「日の名残り」は、次のような方に特におすすめです。

世界史、特に現代史が好きな人

先ほども述べたように、第二次世界大戦前夜の重要な会合の場を覗いているような気分になれますし、世界史特に現代史が好きな人には特におすすめです。

ナチスドイツを描いた映画は沢山ありますが、同時代のイギリスの様子を執事の目を通して描いた作品はなかなかないと思います。

歴史好きにしか分かり得ないトリビアが数多く散りばめられているのも魅力でしょう。

繊細な映画や、芸術が好きな人

この映画のジェームズ・アイヴォリー監督は、最近では、「君の名前で僕を呼んで」の脚本を書いたことでも注目されました。

監督としても、大ヒットした「眺めのいい部屋」でアカデミー賞の3部門を受賞したり、「モーリス」という作品でヴェネツィア国際映画祭の銀獅子賞を受賞しました。

「ハワーズ・エンド」ではカンヌ国際映画祭35周年特別賞を受賞したりと、巨匠と言ってもいい人物でしょう。

そんなジェームズ・アイヴォリー監督の手にかかったノーベル賞作家が原作の小説ですから、素晴らしくないはずがありません!

繊細な映像美と、ストーリー、登場人物の心情の変化、そして音楽も素晴らしいです!

私は、年間恐らく約200本近く映画を観ていますが、ここまで高貴で繊細な素晴らしい作品にはなかなか出会えません。

忙しい現代社会において、ここまでゆったりとした時間が流れながらも、それが世界史の大きな潮流に巻き込まれていくような壮大なストーリーの映画を見るのは、大変癒しになります。

大ヒットを狙って作られた娯楽大作では、心の底から満足できない…と言う紳士淑女の皆さんに特にオススメします。

5.「日の名残り」私の視点

私個人の感想を率直に言いますと、

え?!スティーヴンスってゲイなの?!

と思ってしまいました。

いくらプロ意識が高いとは言え、魅力的な女性が自分に好意を示しているのに、逃げるということは同性愛者なのかなと思いました。

(ちなみに私はゲイの友達が欲しいな、と長年思っていますが、自分が女性ということもあり、なかなか出来ません。)

それにしても、ミス・ケントンには、これから孫との生活を楽しんでほしいです。

もしも私がミス・ケントンの友人なら、

スティーヴンス、ファック!!!

と、弱腰すぎるスティーヴンスに文句を言うと思います。

さて、そんなこんなで、世界史に詳しくなくても、十分楽しめる映画ですので、是非ご覧になってください!

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