こんにちは。エンタメブリッジのごーです。
今回は、とっても難しいSF映画「パプリカ」を紹介します。
「パプリカ」はSF小説作家として有名な筒井康隆の原作をアニメ化したものであり、「現実と虚構」をテーマにしたものです。
物語の展開は観る人に対して説明的ではなく90分という短い中に色々なエッセンスを詰め込んだ作品です。
そんな作品なだけに、感想や解釈も様々でしょう。
ここでは私の一方的な解釈で「パプリカ」を解説します。
それでは始めていきましょう。
目次
1,「パプリカ」の作品紹介
監督:今敏
原作者:筒井康隆
原作:パプリカ
出演者:林原めぐみ、江守徹、堀勝之祐、古谷徹、大塚明夫、他。
受賞歴:第35回モントリオール・ニューシネマフェスティバルPublic’s Choice Award受賞。第12回アニメーション神戸にて作品賞・劇場部門ノミネート。東京アニメアワード2007にて、優秀作品賞劇場映画部門、個人部門音楽賞、他。
2,「パプリカ」のあらすじ
画像出典:https://myaccount.unext.jp/
ここからはあらすじを紹介します。
かなり難しい作りになっているので、主要な登場人物の目的を追いましょう。
解釈を混ぜてあらすじを書いています。
「パプリカ」のあらすじ(ネタバレなし)
千葉敦子の分身であるパプリカは夢の中で精神を利用するサイコセラピストであり、粉川警部の夢の中に入りトラウマを探していました。
その日の治療が終わると、他人の夢の中に入り込むための装置であるDCミニが何者かに盗まれたという情報が入ります。
この装置が悪用されてしまうと、他人の精神を勝手に操ることが出来るようになり人格を破壊してしまいます。
いち早くDCミニを取り返すために千葉敦子は自身が治療していた粉川警部と共に、犯人を捜します。
この捜査は混迷を極めますが果たして、犯人を見つけることは出来るのか?
そして粉川警部のトラウマは治すことが出来るのだろうか?
「パプリカ」のあらすじ(ネタバレあり)
画像出典:https://myaccount.unext.jp/
「パプリカ」は主に2つのストーリーで形成されています。
一つはDCミニを盗んだ犯人を見つける物語。
もう一つは粉川警部のトラウマを治療する物語です。
先に主人公の目的をお伝えしたのは訳があります。
この作品は物語が複雑すぎて、観ている途中で何の話か分からなくなってしまうことがあるからです。
それでは千葉敦子とパプリカを中心にあらすじを見ていきましょう。
千葉敦子は他人の夢の世界をパプリカとなって自由に動き回ることが出来るサイコセラピストです。
粉川警部のトラウマを治療しています。
ある日、他人の夢に入るための装置であるDCミニが盗まれてしまいます。
この問題を解決するために、研究開発者である時田、所長の島と共に四肢が不自由で車いすに乗っている理事長・乾の部屋を訪れます。
乾はDCミニの危険性を主張し島・千葉と口論へと発展。
この間に突如として島が発狂し、研究所から飛び降ります。
事態を重く見た研究所の面々は犯人を捜すために動き出します。
最初に疑いをかけたのは時田と共に開発をしていた氷室でした。
氷室の家に着くと既に氷室の姿はありません。
時田は千葉に怒られたことで、一人で氷室の夢の世界に入り込みます。
しかし夢の世界があまりにも強いため、逆に夢に吸い込まれて現実世界では寝たきりの状態になってしまいます。
発狂してしまった千葉はパプリカの助けによって現実世界に戻ってくることが出来ました。
千葉と島は協力して犯人を追及します。
千葉はパプリカとなって氷室の夢に入って行きます。
ここで千葉と島は気づくのです。
氷室は犯人ではなく、既に真犯人に操られているということを。
その真犯人は何と理事長である乾でした。
乾は不自由な体を自由にするために、DCミニを盗み他人の身体をも盗もうとしていたのです。
パプリカは夢の世界で乾に襲われます。
絶体絶命のピンチでしたが、同じく夢の世界で事故の過去を見つめ直していた粉川警部と夢の世界が繋がります。
粉川警部のトラウマは映画監督になりたかった夢を途中であきらめたことでした。
このトラウマを破るために映画のスクリーンを破ります。
するとスクリーンの向こう側には襲われている千葉でありパプリカがいます。
粉川はパプリカを救出しようと逃げ出します。
夢の中でパプリカを助けることによって、粉川の映画はついに完成。
ついに粉川はトラウマを克服したのでした。
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粉川と千葉は現実世界に戻ります。
しかし乾は現実世界まで二人を追いかけて来る。
現実世界では乾と研究所のチームとの戦いが始まりました。
一般の人々はどんどんと精神を侵されていき、パレードに参加していきます。
巨大な乾とパプリカの戦いが始まります。
パプリカが赤ん坊の姿に。
赤ん坊姿のパプリカはどんどんと乾を吸い込んでいきます。
吸い込めば吸い込むほど大人の女性に成長します。
そして見事乾の暴走を食い止めて現実と夢の融合も止めたのです。
3,「パプリカ」のみどころ
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「パプリカ」は映像も音楽も多大な評価がされた映画です。
勿論、その点は見どころです。
しかし、そのことだけにとどまらず、台詞や物語の進行も見どころになっています。
ここからは「パプリカ」の見どころを紹介します。
夢の中の映像と音楽の美しさ
「パプリカ」のみどころとして、1番に挙げておきたいのはその映像と音楽の美しさです。
幻想の世界は現実世界と違い、すべてがあべこべです。
あらゆるモノがミックスされたり、分離されたりしながら独自の世界を作り出しています。
これまでの映画でも、幻想の世界や夢の世界を映像にした作品は多く存在します。
「パプリカ」のファーストシーンはサーカスの劇場から始まります。
夢が劇場のようなものだという演出意図です。
舞台としては粉川警部の夢の中ですが、目まぐるしくシーンが移り変わります。
また現実と幻想が交じり合っていくシーンは圧巻です。
特にダイナミックで荒唐無稽な人形やロボットたちが歩き出すフェスティバルのシーン。
映像も細かいところまで描かれていて素晴らしいですが、音楽賞も受賞した平川進のBGMがとてもフィットしていて映画の歴史に残る名シーンと言ってよいでしょう。
現実の世界なのか幻想の世界なのか見分けが難しい
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「パプリカ」は現実と夢の世界が複雑に交錯する物語であり、集中して観ていなければストーリーラインがわからなくなってしまいます。
すべてのシーン、カット、キャラクターのセリフを情報として覚えておかなければ物語の進行を見失ってしますこともあります。
しかしこの難しい物語の展開こそが「パプリカ」の見どころ。
むしろ演出上の意図としてわざと複雑にしている部分もあります。
つまり「解釈」を与えないという意図。
「パプリカ」という物語自体がテーマとしているのは、現実と虚構を分けて考えることがおかしいという事です。
人は物語を自分なりの解釈で、筋道を立てて理解しようとします。
この理解しようとする秩序をこそ、破壊しようとする意図が隠れているのです。
発狂した人々のセリフ回しの面白さ
「パプリカ」の舞台設定自体がSFであり科学や心理学の小難しい専門用語が飛び交います。
訳の分からない台詞のやり取りになりますが、中でも訳が分からなく且つ面白いのは発狂した人のセリフでしょう。
基本的に人は言葉を単語だけではなく、文脈にも合わせて理解します。
登場人物たちの中で精神を乗っ取られた人は、現実の世界でも発狂してしまいます。
日常生活を送っていて、普通の会話を交わしているにもかかわらず話の内容が急変。
訳の分からない言葉を語り始めます。
ここでは物語上で最初に発狂した島所長のセリフを取り出してみましょう。
五人官女だってです。
カエル達の笛や太鼓に合わせて回収中の不燃ごみが噴きだしてくる様は圧巻で、まるでコンピューターグラフィックスなんだそれが!
総天然色の青春グラフィティや一億総プチブルを私が許さないことぐらいオセアニアじゃ常識なんだよ!
今こそ青空に向かって凱旋だ!
絢爛たる紙吹雪は鳥居をくぐり周波数を同じくするポストと冷蔵庫は先頭を司れ、賞味期限を気にするくらいの輩は花電車の進む道にさながら趣味となってはばかることはない。
おもい知るがいい。
三角定規たちの感想を。
さあこの祭典こそ内なる小学三年生が決めた遥かなる望遠カメラ!すすめ!集まれ!私こそがお代官様…
すぐだ、すぐにだ。
私を迎え入れるのだ。
訳が分かりません。
完全に発狂しています。
島所長はこのまま走り出し窓ガラスを突き破って飛び降ります。
4,「パプリカ」私の視点
画像出典:https://myaccount.unext.jp/
私の独断と偏見を持ってこの映画の感想を記述します。
幻想的な映像ではありますが、テーマは結構身近にあるんです。
ここからは私の視点を紹介します。
過去の記憶は過去の記憶の記憶…
友人同士で思い出話に耽っていると、実際に会った出来事であるにもかかわらず話がかみ合わないことがあります。
実際同じことを経験していたにもかかわらず、人によって記憶が違ってしまっているから起こっていることです。
友人同士のたわいない会話の範囲であれば何も問題はありません。
しかし記憶の違いに事件性があった場合や、病気にさいなまれてしまった場合は大きな問題となります。
「パプリカ」の場合は過去の記憶によって病気にさいなまれている人が複数登場します。
記憶は人の成長を促します。
しかし一方では成長を止めるばかりか、心に傷を与えることもあります。
記憶は個人の中で何度も作り直されていくこともありますし、無意識的に消失させようとすることもあります。
登場人物である粉川警部は過去の記憶によってトラウマを抱えていますが、過去の記憶をさかのぼり何が自分を苦しめていたのか発見します。
そして夢の世界でこの記憶を現在の現実の自分のステップとなるように書き換えます。
良くも悪くも記憶は常に曖昧なのです。
この曖昧な記憶に苦しめられるのであれば、自ら意識的に書き換えてしまえばよいのです。
現実世界には「無意識」を治療することでしか解決しない問題がある
「無意識」という概念を発見したのはフロイトという精神科医でした。
何故彼が「無意識」を発見したかと言えば、彼の生きた時代が戦間期の暗い時代だったからです。
医者として生計を立てている彼のもとには戦時中では解明できない「狂ってしまった人々」が多く訪れました。
彼らは自分の理性を破壊するほどの恐怖を残酷な戦争という現実の中に見たのです。
戦争のトラウマによって、戦争から帰ってきた人の精神を苦しめる精神疾患を現在ではPTSD(心的外傷後ストレス)と呼ばれています。
彼らを治療する方法として採用されている一つの方法は、自身を苦しめている記憶を自ら想起させるという手法です。
人間はあまりにもショッキングな出来事を目の当たりにしてしまうと、記憶の底に封印してしまおうとします。
しかしこの記憶は完全に封印できるものではなく、無意識の状態で本人を苦しめるのです。
自分を苦しめているのが何か?このことを突き止めることからPTSDの治療は始まるのです。
私たちは本当に現実世界を生きているのだろうか?
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「パプリカ」で最後まで問題にしていることテーマは「私たちが生きているのは現実なのか、それとも虚構なのか」という問いです。
「善悪」「過去と未来」「男と女」など私たちは二分法によって世界を観ています。
言葉では便宜上、二つのモノを分けていますが現実はどうでしょう。
劇中でパプリカと敦子はこんなやり取りをします。
敦子「あなたは私の分身でしょう」
パプリカ「あなたが私の分身という発想はないわけ?」
鏡に向き合っている自分がいるとします。
鏡に映っている自分が本物か、鏡の前に立っている自分が本物か。
この議論は現実を虚構はどちらか、という議論に似ています。
そして答えを出すことは出来ません。
しかし一つ言えるのは劇中で粉川警部が虚構を生き改善したことによって現実も改善された事。
現実も虚構も二つで一つだということです。
5,「パプリカ」をおすすめしたい人
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「パプリカ」はかなりマニアックなアニメ映画です。
そのためおすすめしたい人も限られてきます。
以下におすすめの人を挙げますが、もちろんこれらの人以外にもおすすめです。
不可思議な世界観が好きな人
「パプリカ」があらゆる表現技法で表現しているのは、奇妙ではありますが現実の世界です。
不思議な現象を映像として見てみたい、という人にはおすすめの作品です。
夢や妄想、幻覚といったモノは全て不思議な現象です。
毎晩のように人は夢を見ている状態の脳波を発していることが、科学的に証明されています。
しかし、科学や科学技術は人が「本当に夢を見ているのか」、「見ているとしたらどのような夢なのか」を立証するほどには進化していません。
また夢を見ていた本人も、ほとんどを忘れてしまっているのが現実です。
夢は天才・奇才の芸術家が何度も可視化を試みています。
おそらく完成に至らないであろう、この夢や妄想、幻覚の一端を観てみたいという人にはおすすめの作品です。
バーチャルリアリティに興味を持つ人
アミューズメントパークではバーチャルリアリティによって高い所を綱渡りしたり、深海に潜りサメに襲われたりするなどの経験が可能になりました。
バーチャルリアリティの世界はかなりリアルで、体験している本人はかなりの恐怖に怯える人もいます。
しかしその怯えている体験者を観ている人々は、その滑稽な様を見て面白がることもあります。
バーチャルリアリティの体験では、まさに現実と虚構が入り混じった体験をすることが出来ます。
また現実を虚構が入り混じった経験をしている人を、客観的に観察も出来るのです。
「パプリカ」の世界観はこの体験に非常によく似ています。
現実世界はどっちなのか、観ている人でさえ迷宮入りしてしまいそうな体験が出来ます。
過去にトラウマを持っている人
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実社会で生きる大人になると、子供時代に描いていた大きな夢をあきらめた人も多くいると思います。
途中であきらめてしまった夢が、いつの間にか自身のトラウマになっていることもあります。
「パプリカ」に出てくる粉川警部は青年時代に映画監督を夢見ていましたが、途中で挫折してしまいます。
そしてそのことが現実の自分を苦しめています。
パプリカによって深層心理にある傷を治療してもらったことで、トラウマの苦しみから解放されて現実世界を元気に生きられるようになります。
これは「パプリカ」という作品が持っているテーマの一つでもあります。
この映画は過去にトラウマがあり、そのトラウマと正面から向き合えない人にもおすすめの映画です。
映画をこよなく愛する人
主要な登場人物である粉川警部が観ている夢の中には、多くの名画と言われている映画が登場します。
まずはファーストシーンとして『史上最大のショー』から始まり『ターザン』、『ローマの休日』など、様々な映画のワンシーンが模倣されています。
映画が好きな人にとっては懐かしい気分になるシーンでしょう。
また粉川警部が映画館でパプリカに撮影技法を教えているシーン。
粉川自身がパプリカに説明していますが、帽子やサングラスの感じから日本映画の巨匠黒澤明を模しているとわかります。
劇場の設定で粉川は既に中年以上の歳であり、模倣される映画も古いものばかりです。
登場する映画も映画監督も古いものではありますが、映画好きな人にとってはたまらない名シーンの数々です。
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