映画「ボーダーライン」圧倒的なリアルさで描かれる麻薬戦争の真実【あらすじ/ネタバレ/解説】

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こんにちは。

エンタメブリッジライターのhappaです。

今回は、映画「ボーダーライン」をご紹介します。

この映画の原題は「Sicario」。

メキシコで“暗殺者”を意味する単語です。

実はこの原題、この映画の内容おいてかなり重要な意味を持ちます。

Sicarioとは一体誰を指すのでしょうか。

映画を観る前、予告やポスターをみて、こんな映画だろうなとある程度は先入観を持って見始めますよね。

私の場合、この映画を観て、そんな先入観が見事に裏切られました。

アクション映画なんて苦手という方も含め、ぜひこの世界を覗いて見てください。

1.「ボーダーライン」の作品紹介

公開日:2016年4月9日 (日本)
監督:ドゥニ・ヴィルヌーヴ
脚本:テイラー・シェリダン
出演者:エミリー・ブラントベニチオ・デル・トロ、ジョシュ・ブローリンビクター・ガーバー、ダニエル・カルーヤ、他。

2.「ボーダーライン」のあらすじ

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画像出典:https://eiga.com/movie/83119/gallery/

ここでは、この映画のあらすじを、ネタバレなしとネタバレありに分けてご紹介していきます。

その前にちょっとご紹介しておくと、実はこの映画の雰囲気を決定付けている重要な要素の1つがヨハン・ヨハンソンの楽曲です。

サントラだけで聞いてみることもおすすめです。

その音楽が醸し出す不穏さの奥にあるものがなんなのか、是非あらすじを読みながら想像してみてください。

「ボーダーライン」のあらすじ(ネタバレなし)

FBI捜査官のケイトは誘拐即応班で働いていましたが、ある時麻薬カルテル捜査の専任になることになります。

そこでは機関を超えたカルテルの捜査を行うのです。

彼女はそこで、思いもよらないものを数多く見ることになります。

自分が信じる正義、それが根底から揺らぐ時、彼女はどうなるのでしょう…。

「ボーダーライン」のあらすじ(ネタバレあり)

FBIの誘拐即応班のケイトはある時、麻薬カルテル抗争の人質が囚われていると言う建物に突入します。

しかし、そこには壁の奥に多数の腐敗した人質の遺体が隠されていました。

犯行は建物の名義人であるマヌエル・ディアスという男が幹部を務めるソノラというカルテルの仕業であることが分かります。

その一件での手腕や現場経験の豊富さが認められ、ケイトはカルテル捜査の専任になるよう命を受けます。

機関を超えたその捜査の最初の任務はマヌエルの兄、ギエルモを移送するというものでした。

ケイトは国防総省の顧問というマットとアレハンドロという男達と共にその任務に就くことになります。

アレハンドロは元検察官のコロンビア人で、状況が理解できずイライラする彼女に

米国人の君には理解できない。

全てを疑うだろう。

そして最後には全てを理解するだろう。

と言います。

一体どういうことなのでしょうか。

彼らはギエルモをメキシコの国境の町フアレスからアメリカに移送します。

その帰路の国境越えの際、ギエルモを奪い返そうと追跡してきたカルテルの構成員達をマットらは多数の民間人の目の前で銃殺します。

それにショックを受け、怒るケイトにマットは自分たちの仕事はカルテルに混乱を起こすことだと告げます。

混乱を起こせばボスは幹部でマヌエル・ディアスをメキシコに呼び戻すために連絡を取る、そうすればトップであるファウスト・アラルコンの居場所がわかるというのです。

その頃アレハンドロは裏である情報を得ていました。

麻薬を運ぶトンネルがあるというのです。

一方で麻薬捜査の成果を挙げたいケイトは、突き止めた資金洗浄屋を逮捕し、金の動きからマヌエル・ディアスも逮捕しようとします。

しかし、マットらの目的はあくまでもボスを焦らせ身内を疑わせて上を潰すことです。

説得されたもののイマイチ納得がいかないケイトは気晴らしにFBIの相棒レジーとバーに飲みに行きます。

そこでレジーの知り合いの警察官テッドと会い、お酒を飲んで楽しんだケイトはそのままテッドの家へ行きます。

しかしそこで、カルテルの人間が使っていたゴムバンドを見つけ、テッドがカルテル側の手先だったことに気がつきます。

ケイトはテッドに首を絞められ殺されそうになりますが、そこに彼女を見張っていたアレハンドロがやってきて彼女を助けます。

さて、とうとうボスがディアスをメキシコへ明日呼び戻すと言う情報を掴み、ある作戦が実行されることになります。

麻薬を運ぶトンネルへの突入です。

その際、ケイトは本来行くべきルートではない、他のメンバー達とは異なるルートを進んでしまいます。

その先には麻薬を大量に積んだメキシコ警察の警察官シルビオと、彼に銃を向けるアレハンドロの姿がありました。

ケイトは咄嗟に彼らに銃を向けますが、アレハンドロは彼女の防弾チョッキに発砲し、警察官を連れ去ってしまいます。

必死の思いでトンネルを抜け、他のメンバーと合流したケイトにマットは、

君は違う通路に入り、見るべきではないものを見た。

かつてコロンビアにあったメデジン・カルテルでは、我々に把握できる量の麻薬が流通していた。

今はその秩序が崩壊した。

我々は今その秩序を取り戻そうとしている。

と言います。

なんとアレハンドロはメキシコのカルテルと競合するコロンビアのカルテルに雇われた人間だったのです。

CIAとコロンビアカルテルの利益の一致が生み出したチームにケイトは知らずにいたのです。

かつて検察官だったアレハンドロはソノラ・カルテルに妻と娘を惨殺されその復讐のためなら何でもする、誰のためでも働くというのです。

事実を知ったケイトは

私は都合よく黙らない。

と怒りを見せます。

さて、一方でシルビオを連れたアレハンドロは本部からの無線の指示を受け、マヌエル・ディアスの車を発見しました。

アレハンドロはパトカーのサイレンで止まらせ、先に行かせたシルビオを後ろから射殺し、ディアスの足を撃って動けなくさせ、ボスの元まで案内させます。

ボスの屋敷に着いたアレハンドロはディアスを射殺し、屋敷内の手下達も次々と殺します。

屋敷の奥では、ボスのファウスト・アラルコンが妻と2人の子供達と夕食を食べていました。

アレハンドロは

毎晩お前は“家族”を殺させている。

だがお前は食事をしている。

今夜も同じだろう。

と言います。

そして、息子達は助けろという声を聞かずに、ほとんど表情も変えず、妻と息子達を先に射殺します。

そして、最後に呆然とするアラルコンを射殺します。

自宅に戻ったケイトの元にある日、アレハンドロがやってきます。

アレハンドロは作戦は全て規定に準じたものだったと言う内容の書類にサインするようケイトに言います。

1度は断ったケイトですが、銃を突きつけられ、サインしてしまいます。

アレハンドロは

君はここでは生きられない。

法秩序が残る小さな町で生きろ。

と言います。

去っていくアレハンドロに、ケイトはベランダから銃を向けます。

それに気づいたアレハンドロは静かにそれに向き合います。

しかし引き金を引くことは出来なかったケイトに背を向け、去って行きます。

一方父を失ったシルビオの息子は、広場でサッカーをしていました。

そこには日常になってしまっている銃声が響き渡ります。

3.「ボーダーライン」のみどころ

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画像出典:https://eiga.com/movie/83119/gallery/

この映画を1度観た人は、きっと何度も見返したくなるでしょう。

ちなみに私は3回観てしまいました。

観る度に、この映画には新しい発見があります。

その中から、私なりの視点でみどころをご紹介していきます。

観客も置いてけぼり⁉︎予想外の展開

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画像出典:https://eiga.com/movie/83119/gallery/

実はこの映画は、ある意味ではすごく観客に対して不親切な映画なんです。

大抵の映画、特にこういうアート系ではない娯楽大作では観客は映画の中で今何が起きているのか、映像や台詞で説明され、理解しながら見ますよね。

しかし、この映画ではほとんどそれがありません。

正確に言うと、説明はされているけれど、ほとんどの観客はそれがどういう意味を持つのかがよく分からないのです。

そして、映画の中で状況を最もよく分かっていないのが、実は“主人公”ケイトなのです。

女性の敏腕FBI捜査官が麻薬カルテルと果敢に戦う映画かと思いきや、彼女はひたすら戸惑い、状況が理解出来ないことにイライラし、怒り、最終的には精神を止むまでに敗北する主人公なのです。

この状況は、ある意味では麻薬戦争のリアルなのかも知れません。

私たちが当初想像するような麻薬カルテル捜査に果敢に挑み、カルテルを打ち負かすヒーローやヒロインのような捜査官がもし現実にいれば、麻薬戦争の現状は果たしてここまで泥沼化していたか、ということです。

さて、そこで登場しなければならなかった新たな人物、それがこの映画のある意味で本当の主人公であるアレハンドロなのです。

アレハンドロの存在については、この映画の軸になる部分なので、後ほどもう少し解説と、私が思うことを書いていきたいと思います。

私がこの映画の構成についてもうひとつ衝撃を受けたのが、カルテル側についた汚職警官のシルビオの存在です。

映画の所々に、シルビオの妻や息子との日常が挿入されています。

観客は最初この人物が一体誰で、どういう役目を持っているのかが全く分かりません。

そしてそれが分かる時、彼はあまりにも簡単にアレハンドロに殺されるのです。

この映画の構成の容赦のなさは、そのままアレハンドロの容赦のなさなのです。

それこそが、麻薬戦争なのでしょうか…。

ベニチオ・デル・トロの存在感

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もちろんエミリー・ブラントが演じたケイトは観客に最も近い存在であり、演技も素晴らしく、ジョシュ・ブローリンだって素晴らしいです。

でもやっぱりこの映画を観た人たちの心に強烈に印象付けられるのはベニチオ・デル・トロ演じるアレハンドロなのではないでしょうか。(正しい発音としてはベニシオが近いと思うのですが、日本ではベニチオが一般的なので、こちらで表記します。)

ベニチオ・デル・トロはプエルトリコ出身の俳優で、母語であるスペイン語、英語共に流暢なことからさまざまな役柄を演じる演技派です。

「ユージュアル・サスペクツ」や「21グラム」、アカデミー助演男優賞を受賞した「トラフィック」など、多くの名作に出ていますが、私は「ボーダーライン」シリーズのアレハンドロ役がベニチオ・デル・トロのベストアクトだと思います。

自分の家族を殺させたボスとの対峙シーンは、表情の演技だけでここまで表現できることにショックさえ受けます。

また、続編の「ボーダーライン ソルジャーズ・デイ」ではアレハンドロが主役に設定され、本作よりもストレートにその人間性が描かれます。

4.ライターhappaの視点

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アレハンドロの存在が示すもの

映画やドラマ、小説でも、殺人者というのは度々描かれます。

その際、彼らをそこに向かわせた原因というものが同情的に描かれることが多々あります。

私はあまりにも安易にそれが描かれる時、ちょっと怖いなと思ってしまいます。

アレハンドロも簡単に多くの人を撃ちますが、そうなってしまったのは妻と娘を殺されたからです。

そう言葉で書いてしまえば、同情や共感の余地があるように思えますよね。

しかし、みどころでも書いたようにこの映画の中で徹底して描かれるのは、容赦のなさです。

私にはそれが、この映画の構成と同じように、観るものが簡単にアレハンドロに同情し、共感することを拒んでいるように思います。

主人公のケイトは彼の近くにいながら、理解できず、そこには決して足を踏み入れられなかった、アレハンドロがいるのはそういう場所なのです。

彼は復讐のために家族を殺させたボスをその手で殺しますが、彼の物語はそこでは終わりません。

仮に最終目標であるかつての秩序の復活を達成したとしても、やはり彼は救われないでしょう。

家族を殺された時、アレハンドロは自分自身もまた、罪を背負ってしまったのだと思います。

そしてそれでも生きるために、ある意味ではその罪を償うために、境界を超えてしまったのかも知れません。

しかし、家族を殺された人間が、また誰かの家族を殺すというこの構図の先には一体何があるのでしょう…。

ラストでケイトから銃口を向けられた時、アレハンドロはそこにただ黙って向き合います。

私には彼が撃たれることを願ったようにも見えました。

しかし、彼に対し引き金を引けなかったケイトの存在はある意味では希望なのかも知れません。

私たちはアレハンドロのような存在を簡単に理解した気になったり、同情したりしてはいけないと思います。

ケイトのように理解しようとして、理解できず、葛藤することこそが必要なのではないでしょうか。

5.「ボーダーライン」はこんな人におすすめ

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画像出典:https://eiga.com/movie/83119/gallery/

最後に「ボーダーライン」を特におすすめしたい人をご紹介していきます。

ちなみに続編の「ボーダーライン ソルジャーズ・デイ」は、脚本はテイラー・シェリダンが引き続き担当しているものの、監督や撮影監督が変わり、解釈も変わっています。

私がこの映画のポイントだと思うアレハンドロの描かれ方も結構変わっています。

なので、違う映画として楽しむのもありかなと思います。

ぜひどちらも観てみてください。

臨場感を味わいたい人

この映画では様々な撮影上の工夫で、まるで観ている人自身が今そこにいるかのような感覚を持つよう演出されています。

例えば暗視カメラの映像もその1つです。

さらに、観客は“神の目”を持って登場人物たちより詳しく状況を理解することができないことが、より麻薬戦争と言う混沌の渦中にリアルにいる感覚を際立たせています。

日常では絶対に味わうことのない感覚をぜひ体感してください。

麻薬カルテルものに興味がある人

朝日新聞GLOBE+の2018年12月13日の記事によると、アメリカだけで2017年に史上最多の7万人以上が薬物過剰摂取で亡くなったそうです。

そこに麻薬戦争の被害者も考えると、想像もできない数の人たちが薬物の犠牲になっていることになります。

それだけの犠牲を出しているものに対して、自分には無関係だからと無関心なのはちょっと違う気がしますよね。

まずは映画というエンターテイメントとしてからでも、その一端を知るのは大切なことかも知れません。

ちなみにアレハンドロを演じたベニチオ・デル・トロは、「ボーダーライン」以外でも、「トラフィック」では麻薬捜査をするメキシコの警察官、「悲しみが乾くまで」では麻薬に依存して苦しむ男、「エスコバル 楽園の掟」では本作にも名前が登場するコロンビアのメデジン・カルテルの創始者パブロ・エスコバルを演じるなど、様々な形で麻薬に関わる人間を演じています。

彼が登場する作品を見るだけでも麻薬の恐ろしさを色々な面から知ることができます。

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