【ネタバレあり】アメリカン・ヒストリーXから教わる人種問題の根深さ

1.アメリカン・ヒストリーXの作品紹介

公開日: 2000年2月19日 (日本)
監督: トニー・ケイ
原作: デヴィッド・マッケンナ
出演者:エドワード・ノートン、エドワード・ファーロング
受賞歴:アカデミー主演男優賞ノミネート

2.あらすじ(ネタバレ無し)

黒人を殺害した罪で服役する兄デレクの白人至上主義思想に傾倒する高校生のダニー。

刑務所から出所したデレクは、差別意識がなくなり別人のように変わっていた。

一体刑務所で何があったのか?衝撃的なエンディングとともに、現代アメリカが抱える深刻な人種問題を鋭く描いた問題作。

3.あらすじ(ネタバレあり)


(画像出典:https://www.amazon.co.jp/)

白人至上主義に傾倒するデレク(エドワード・ノートン)は、黒人の自動車泥棒を殺害した罪で刑務所に投獄されます。

デレクの出所の日、弟ダニー(エドワード・ファーロング)が通う高校のスウィーニー校長は、ダニーを校長室に呼び出します。

ダニーはヒトラーの「我が闘争」について感想文を書き、過激な思想を示したため問題視されたのです。

スウィーニー校長は、白人至上主義に傾倒していた兄デレクの影響を懸念し、「兄弟」というテーマで、「アメリカン・ヒストリーX」と名付けたレポートを翌朝までに書いてくるよう、ダニーに命じます。

デレクが投獄された経緯を分析し、それが現代のアメリカにおけるダニーの生き方をどう変えたか、ダニーや家族にどう影響を与えたか、レポートにまとめるよう指示したのです。

ダニーは服役前のデレクとの日々を回想します。

消防士だったデレクの父親が黒人の売人に射殺されたことをきっかけに、デレクは有色人種を敵視し、ヨーロッパ系白人至上主義の思想に傾倒していくようになりました。

ネオナチ思想の過激なグループに入り、存在感を示していくようになります。


(画像出典:https://cinemovie.tokyo/)

ネオナチグループでカリスマ的な人気を誇るようになったデレクを、ダニーは崇拝するようになります。

しかし、刑務所から出所したデレクは、別人のように穏やかになり、差別的な言動は無くなっていました。

ネオナチグループのメンバーからの尊敬を集めていたデレクは、リーダーになることも打診されますが、それを断り、脱会してしまいます。

さらに、刑務所に入る前から付き合っていた、ネオナチグループ内の恋人とも別れてしまいます。

デレクが変わった理由は、刑務所での経験にありました。

刑務所に入ったデレクは、ここでも服役者で構成されるネオナチのグループに入ります。

刑務所内での仕事として洗濯係の役割を与えられ、陽気で友好的な黒人ラモントとペアになりますが、黒人を敵視するデレクは徹底的に無視します。

刑務所に入ってから1年が経った頃、デレクは、ネオナチの仲間が、有色人種であるメキシコ人を相手に刑務所内で商売していることが許せず、ネオナチのグループから距離を置くようになります。


(画像出典:https://cinemovie.tokyo/)

同時に、洗濯係のパートナー、ラモントとは、洗濯の仕事をともに続けるうちに、次第に言葉を交わし親しくなっていきます。

そして、それをきっかけに他の黒人のグループとも親しくなっていきました。

しかし、それを快く思わなかったネオナチのグループのメンバー達に、デレクはシャワー室で襲われてしまいます。

レイプと暴行を受け、大怪我を負いました。

刑務所内の病室で、激しいショックを受けて悲しみにくれるデレクを、デレクの高校時代の恩師でもあるスウィーニー校長が見舞いに来ます。

校長は、黒人として差別に苦しみ続け、一時は白人を憎んだこともあることを話し、デレクに「怒りが君を幸せにしたか?」と問いかけます。

デレクはスウィーニー校長の言葉に共感し、刑務所から早く出たいと助けを求めますが、校長は逃げずに正々堂々と戦うようにデレクに伝えます。

ネオナチのグループと決別したデレクを、洗濯係のラモントは心配します。

これまではネオナチグループが防波堤となっていたが、その防波堤がなくなった今、これからは黒人からも攻撃されるというのです。

怯えるデレクでしたが、なぜか黒人から攻撃されることはなく、差し入れの本を読んで毎日を過ごし、出所の日を迎えました。

デレクは、自分の見えないところでラモントが自分を守っていてくれていたのだと確信します。

出所の日、デレクはラモントに感謝の気持ちを伝えます。

デレクは刑務所での出来事をダニーに話し、自分を暴走に駆り立てていたのは「怒り」だったが、その怒りにまかせて2人の人間を殺しても虚しいだけだった、疲れたのだと話します。


(画像出典:https://www.shygon.com/)

ダニーは想像もしていなかったデレクの刑務所での日々に驚きを隠せません。

デレクとダニーは、ダニーの部屋中に貼ってあったネオナチのポスターや旗を全て処分します。

ダニーは「アメリカン・ヒストリーX」のレポートを書きながら、デレクが白人至上主義に傾倒したのは父親の死がきっかけではなく、もっと根深いものがあったと気づきます。

ダニーは、父親が生前、黒人への差別意識を持っており、差別意識などなかったデレクに黒人を信用しないよう言い含めていたのを思い出したのです。

そしてダニーは「アメリカン・ヒストリーX」のレポートを書き上げます。

これからは差別的な活動はやめ、真面目に働いていくと決意したデレクを中心に、家族は団結し、デレクとダニーは、前向きに未来に向かって歩もうとしていました。

翌朝、デレクはダニーを高校に送るため二人で家を出ました。

途中でスゥーニー校長と警察官に会い、ネオナチのグループメンバーが、黒人たちから襲撃されたと聞かされます。

デレクはそのカリスマ性を活かして闘争を止めて欲しいとスゥーニー校長に懇願されますが断ります。

ダニーはデレクにも被害が及ぶのではないかと心配します。

デレクはレポートを手に高校へ入っていくダニーを、愛おしそうに見送ります。

しかし、高校でトイレに入ったダニーは、黒人の少年グループに射殺されてしまいます。

前日、白人の生徒が黒人生徒にトイレでいじめられているのを見つけたダニーが止めに入り、にらみ合いになっていた黒人少年でした。

ダニーは報復を受けてしまったのです。

駆けつけたデレクはダニーを抱きかかえ、泣き叫ぶのでした。

血まみれのダニーが握りしめていた「アメリカン・ヒストリーX」のレポートは、こう結論づけられていました。

「憎しみとは、耐えがたいほど重い荷物。怒りにまかせるには人生は短すぎる。」

そして先人の言葉を引用し、こう締めくくられていました。

「我々は敵ではなく友人である。敵になるな。激情に溺れて、愛情の絆を断ち切るな。仲良き時代の記憶をたぐりよせれば、良き友になれる日は再び巡ってくる。」

4.アメリカン・ヒストリーXの見どころ


(画像出典:https://cinemovie.tokyo/)

エドワード・ノートンをはじめとする演技派俳優陣

この映画のみどころのひとつが、演技派の俳優陣。

主演のエドワード・ノートンと、準主演のエドワード・ファーロングに注目です。

エドワード・ノートンは1969年生まれのアメリカの俳優です。

弁護士の父親と教師の母親の間に生まれ、イエール大学を卒業した秀才で、大学では天文学と歴史に加えて日本語も勉強していたため、日本語も話すことができます。

俳優になる前は大阪で働いた経験もあるそう。

どんな悪党を演じても、その佇まいや演技からは隠しきれない知性が感じられます。

エドワード・ノートンがその天才ぶりを世界に示したのが、映画「真実の行方」です。

オーディションで抜擢され映画デビューを果たしたエドワード・ノートンの演技力がこの映画の重要なキーになっています。

その演技力は凄まじく、主演のリチャード・ギアを完全に食ってしまっていました。

初めての映画出演でありながら、アカデミー助演男優賞にもノミネートされました。

「アメリカン・ヒストリーX」でも、服役前の、殺人を犯してしまうほど人種差別に執着する狂気的な表情と、服役後の穏やかな表情を見事に演じ分けています。

エドワード・ノートンのプロ意識は素晴らしく、「アメリカン・ヒストリーX」出演のため筋トレに励み、体重を30ポンド増量しました。


(画像出典:https://www.shygon.com/)

エドワード・ノートンの代表作であり、ブラッド・ピットと共演した「ファイト・クラブ」で見せた平凡で弱々しい役柄とは全く別人の強靭な肉体を披露しています。

「アメリカン・ヒストリーX」以降も、精力的に俳優活動を行い、2014年公開の『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』で第72回ゴールデングローブ賞と第87回アカデミー賞の助演男優賞にノミネートされています。

また、2000年に公開された『僕たちのアナ・バナナ』では、初めて監督を務めています。

エドワード・ファーロングは1977年生まれのアメリカの俳優です。

「ターミネーター2」に出演し、アメリカ以上に日本でも高い人気を誇りました。カルバン・クラインの広告モデルも務めるほどの端麗な容姿と、確かな演技力で熱狂的なファンが多くいました。

日本だけで歌手デビューをしたほか、東洋水産のCMにも出演したことがあります。

「アメリカン・ヒストリーX」では、兄への崇拝、揺れ動く心の機微を見事に表現しています。

ときおり見せる切なげな表情は、アンニュイな魅力を持つエドワード・ファーロングならでは。

残念ながら、最近は薬物依存症とアルコール依存症に苦しみ、映画の一線からは遠ざかってしまっています。

人種問題の根深さについて考えさせられる


(画像出典:https://www.shygon.com/)

刑務所で心を入れ替え、これからは差別などせずに真面目に生きていこうと決めた矢先に、デレクは最愛の弟ダニーを黒人の少年に射殺されてしまいます。

この映画では、その後どうなるかは一切描かれていません。

映画を見た人は、デレクがその後どうなってしまうのか、考えずにはいられません。

最愛の弟を殺されて、以前のように白人至上主義に戻ってしまうのか?

それとも負の連鎖を断ち切ることができるのか?

あなたはどう考えるでしょうか?

なお、監督のトニー・ケイは、他に映画作品はありません。

CM監督として活躍しており、それゆえ映画のシーンにとてもインパクトがあります。

また、音楽は「フルモンティ」でアカデミー賞最優秀オリジナル音楽賞を受賞したアン・ダドリーが担当。

映像と音楽が見事に融合し、観る者に鮮烈な印象を残します。

観た後は、ガーンと殴られたような衝撃を受けるかもしれません。

この映画はフィクションですが、このような人種問題をめぐる悲劇は世界で実際に起きています。

自由と平等を標榜するアメリカですが、現在もいまだ差別が根強く残っていることは、世界中に知られています。

最近では第88回アカデミー賞の演技部門に白人しかノミネートされておらず、ハリウッドは白人優位ではないかとの批判の声が多くあがり、ウィル・スミスが授賞式を表明するなどし、世界的なニュースになりました。

「アメリカン・ヒストリーX」の中でも描写されていますが、アメリカには移民や有色人種がそれまでの白人の仕事を奪っていると考える人が多くいます。

トランプ大統領がアメリカ大統領として当選したのはなぜでしょうか。

トランプ大統領は、アメリカ中西部のイリノイ、インディアナ、ミシガン、オハイオ、ペンシルバニアにまたがる「ラストベルト」と呼ばれる地域の白人労働者からの支持を多く集め、それが当選の大きな要因になったと言われています。

「ラストベルト」とは「錆び付いた工業地帯」という意味で、この地域では製造業が栄えていたものの、工場がメキシコなどに移転したため失業者が増えてしまいました。

また、トランプ大統領は、メキシコとの国境に壁を建設し、不法移民を追い出すなど、普通の政治家なら言わないような過激な発言をしてきました。

トランプ大統領の人種差別的な発言には批判も多くあったものの、内心ではそれを支持する「隠れトランプ支持層」が多くいたと言われています。

トランプ大統領は、移民に仕事を奪われたと感じている白人労働者層から、大きな支持を獲得したのです。

5.アメリカン・ヒストリーXのまとめ

日本では近年、人手不足が大きな問題となり、政府は外国人労働者の受け入れを推進し始めています。

これから、日本国内でも外国人と接する機会が増えていくことでしょう。

日本は単一民族国家のため、この映画で描かれているような人種問題は身近に感じられない人が大多数だと思われますが、今後、外国人と接する機会が増える中で、彼らがどのようなバックグラウンドを持ち、どのような経験をしてきたか、何に苦しんでいるのか、理解することは共に生きるために大切なことではないでしょうか。

 

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